子どもたちの教育を変えることで、より優しく、より思いやりのある世界を作ることはできるのだろうか?
私は、教育こそが社会の進歩と改革の根本的な方法であると信じている。 - ジョン・デューイ [1]
今日の世界を振り返ると、私たちは、人種、政治、経済、生態系など、すべてが相互に関わり合う深刻な世界規模の課題を感じ、目の当たりにします。このような気づきを通して、私たちの多くは、広くかつ根本的な制度改革を目指した行動が必要であると強く感じています。しかし、世界でより多くの人々が「善き力」 [2] となることを後押しし、支援するためには、どのような行動や社会変革へのアプローチが必要でしょうか。
世代を超えた社会を変えていくための、複雑であり強力なテコのひとつは、子ども、青年、若者、そしてその家族にサービスを提供する教育と、学校の変革に焦点を当てています。2000年以来、さまざまな観想的実践を通して、教育者や学校の生徒たちの注意力、気づき、共感、思いやりを養う取り組みが盛んになってきました。このような努力は、今や世界中の科学者、教育学者、実践家たちが成長する動きへと大きく花開いています。彼らは、大人も若者も同様に、このようなスキルや気質を学校で培うことができるかどうか、またどのように培うことができるかということを理解しようと、これまで以上に力を注いでいます。その中心となる問いは、学校において気づきと配慮をより重視することが、対人関係や教育実践、学校風土をより広く変えていくためにどのように活用できるかということです。個人的、社会的、そして世界的な責任を感じながら、生徒たちに気づきと思いやりを教えることに重きを置くならば、それはダライ・ラマ法王14世 [3]が「心の教育」と呼ぶものです [4]。
ダライ・ラマ法王14世が「心の教育」と呼んでいるのは、生徒たちに気づきと思いやりを教えることに重点を置き、それに伴う個人的、社会的、そして世界的な責任を見いだすことです。
心の教育は、社会性と情動のスキル(自己管理、感情認識、優しさなど)の育成だけでなく、注意力(集中力、マインドフルな意識など)、システム思考スキル(相互依存性や共通の人間性を見出すなど)、倫理的気質(公正、利他主義、非暴力など [5])の育成も重視しています。これらすべてを一緒に育てることで、若者はより健やかで幸福になり、世界において「善き力」であることが中心となるようなアイデンティティを持つと信じられています。このような方向へ教育を変えていくこと [6] はまだ遠い目標ですが、歴史的にみて必要であること、このようなアプローチに熱心な人々が増えていること [7] 、そして多くの美しい事例 [8] が学校や大学に存在することは、未来への青写真を示しています。
以下では、教育における瞑想的アプローチの展望について述べ、私たちが学んだことをまとめ、「自身の解放のため、そして世界のために」(インド、コルコッタのラーマクリシュナ寺院および伝道会のモットー)、すべての人々とそのすべての心を教育するという目的の実現に向けて必要な今後の方向性について述べて終わりにしたいと思います。
新しい教育モデルを求めて
教える者は教えるという行為の中で学び、学ぶ者は学ぶという行為の中で教える。 - パオロ・フレイレ [9]
頭や手を教育することと並んで、若者の心を総合的に教育する最善の方法を理解しようと、私の旅は20代前半に始まりました。ミシガン大学で博士号取得のために勉強していた私は、2年後、少し疲れている自分に気が付き、教育においてはっきりとした新しい、心を癒す方向性を強く求めるようになりました。私は、驚きと好奇心の源としての教育を再び活性化させ、先住民や黒人、その他の有色人種をカリキュラムや国家や世界の歴史的生活の中で見ないことにしてきた抹殺と排除の物語を払拭するための力を取り戻すアプローチを求めていました。私たちは、人間として基本的に繋がり合って生きていることを重視する教育を必要としていました。さらに、人類の歩みと意味づけを、自然界とのつながりを中心に据え直す教育が必要でした [10]。新しい教育モデルの必要性についてはある程度明確になっていたものの、私はまだそれを直接体験していなかったのです。
人間として基本的に繋がり合って生きていることを重視する教育が必要だった。
1991年のある夜、私は心理学と教育に興味を持ち始めた高校時代に母からもらった『サイコロジー・トゥデイ』の雑誌の束を偶然見つけました。1989年の一冊の中に、マシュー・フォックスによる「原罪ではなく、原初の祝福」という記事が目に留まりました。当時ドミニコ会の司祭だったフォックスは、精神的な面において先見の明を持つ教育者であり、私が学びたいと切望していた教育の新しいビジョンを教え説いていました。その記事の副題は印象的でした。「心理学は、あなたの問題は何か?と問う。むしろあなたはどんな力を持っているか?と問うべきだ」
その中でフォックスは、蔓延する消費主義、依存症、貧困層への無関心や社会集団の疎外、生態系の危機など、米国社会における課題は、自己、他者、現実に対する曇ったビジョンに根ざした精神的問題が原因であると論じていました。フォックスにとって、キリスト教神学が罪に焦点を当て、肉体と私たちの地球と繋がり合っている現実を軽んじることは、この曇ったビジョンの主要な部分でした。宗教におけるこうした蔑視的な物語(原罪など)にとどまらず、フォックスと同僚たちは、科学(機械論的な宇宙など)、経済学(人間であることの定義としてのホモ・エコノミクスなど)、政治(家父長制的、ポストコロニアル的な権力構造など)に由来する他の無意識的な物語が、自己、他者、自然に関する誤った悲観的なモデルを煽り、しばしばそこから利益を得ていることを指摘しました。記事のキャッチフレーズが示すように、心理学はフォックスの批評から免れることはありませんでした。新しい現実像に基づいた新しい社会を創造するためには、前向きで具体的な精神性や心理学、共同体の儀礼や思いやりのある社会制度、そして新しい形の教育が必要だとフォックスは考えました。1991年のその夜、私は博士課程を休学し、カリフォルニア州オークランドのホーリーネイムズ・カレッジでフォックスのもとで学ぶことを決めた。
フォックスと教授陣が作り上げようとしていた教育の形は、私がこれまでに経験したことのないもので、私のその後のキャリアの青写真となりました。ホーリーネイムズの教授陣には、芸術家、詩人、観想家、哲学者、宗教学者、科学者、社会活動家などがおり、美学的、精神的、哲学的、歴史的、科学的、実践的で多様な知の方法が結集していました。彼らは共に、自分らしさ、所属、目的、創造の物語、生命のつながりの神秘についての疑問を探求しました。カリキュラムは、ルーミーがその詩の中で問いかけている古典的で精神的な問いに対する気づきと洞察に重点を置いたものでした。「私は誰なのか、どこから来たのか、何をすべきなのか。」
正式な学問やさまざまな知識の伝統に深く敬意を払うことに加えて、その教育法では、コミュニティと儀式(ドラムサークル、歌、詠唱など)、自己を振り返る社会的フォーラムへの参加、身体的トレーニング(太極拳、ヨーガなど)の実践、瞑想としての芸術(絵画、陶芸など)、周辺コミュニティでの奉仕活動の機会を重視していました。フォックスは、社会変革のきっかけを作るという点では、これらの実践はすべて、坐禅のようなより内向的な形の瞑想と同じくらい重要だと考えていました。
これらのホリスティック教育の斬新な特徴はすべて、私たちに必要な教育のあり方について、その年に私が学んだ貴重なものでした。後に同僚と私はこれを「観想的教育」と呼ぶことになります [11]。フォックスとのこの一年で私が得た最大の贈り物は、瞑想の道を見つけ、瞑想の実践を身につけたことでしょう。私はグループで瞑想を続け、学問の世界に戻って博士号を取得することに決めました。カリフォルニアで学んだことが、将来、まだ見ぬ新鮮な形で私の仕事に生かされることを期待して。
その後、助教授になった私は、瞑想的実践を教育や研究に取り入れるためのさり気ない方法を考え出すのに何年も苦労しました。終身在職権を得るための戦略としてはあまり得策ではないように思え、結局、終身在職権は得られませんでした。私はフルブライト奨学金を得て、フォックスとともに学んだ実践の多くを青少年に取り入れているインドの学校を研究することになりました。ありがたいことに、ひとつの扉が閉まったと思ったら、もうひとつの扉が開いたのです。
ポストモダン教育におけるインドと古代の智慧
私たちの職業には神聖な側面がある。私たちの仕事は単に情報を共有することではなく、生徒の知的・精神的成長を共有することなのだ。 - ベル・フックス [12]
2005年にフルブライト留学でインドに到着したとき、私はもうひとつの貴重な経験をしました。瞑想をカリキュラムの一部に取り入れている青少年向けの学校に関する研究の一環として、私はマイソールにあるラマクリシュナ僧団が運営する中等学校の校長にインタビューを行いました。私は校長のスワミ(僧侶)に、彼とスタッフが学校で何を達成しようとしているのか、瞑想の実践が学校の教育目的にどのように結びついているのかを尋ねました。「私たちの仕事は、若者たちが自分とは何かを見つける手助けをすることです」と彼は言いました。心臓の上で手を動かす彼の姿は、ここでの "discover "は文字通り "dis-cover"、つまり何かの覆いを取り除くことを意味するようでした。彼のジェスチャーは、ハートの中心、「アナーハタ・チャクラ」の覆いを取り除くことを連想させました。バグワン・ニティヤナンダはこう言っています。「ハートはすべての神聖なものの中心です。そこで自由に歩き回りなさい。」この僧侶と、ヒンドゥー教の瞑想的伝統に基づくこの学校にとって、教育とは、理解のために少しずつ知識を身につけてていくことだけではありませんでした。それはまた、無知を取り除くための集中と気づきを通した一種の引き算でもありました。インドのヒンドゥー教の精神的指導者であるスワミ・ヴィヴェーカーナンダの言葉を借りれば、「教育とは、人間の中にすでにある完全な姿そのものが現れることである」と言えます。
瞑想、勉強、奉仕、暗記や朗読、芸術活動、自然の中に身を置くこと…これらすべてが、自己、他者、現実を洞察するヒントを与えてくれると僧侶は教えてくれました。それらはすべて、自分が何者であるか、そして他者が何者であるかを知る道なのです。それがはっきりと分かる中で、愛と深い相互のつながりの感覚が発展していくのです。この学校とインド中の他の学校で、私はフォックス6がポストモダンの教育機関に古代の叡智を注いでいる例を眼にしました。
私がインドで調査したところ、多くの青少年が自分の内面を探求することに好奇心を抱いていたものの、こうした学校での瞑想の時間への参加は控えめで、社会に対して自分を見失ってしまう生徒もいました。加えて、多くの青少年は瞑想の実践や、それがなぜ自分たちの人生にとって価値があるのかを理解していませんでした。また、なぜそのようなことをするのかについて、伝統にのっとった宗教的説明だけでなく、科学的な説明が欲しいという意見もありました。それにもかかわらず、生徒たちはこうした実践をすることの潜在的な価値を感じていたのです。
学齢期の子どもたちの瞑想を研究し、それを科学として発展させるにはどうしたらいいのか、瞑想の実践と並行して子どもたちや青少年に教え、やる気を起こさせ、教育するためにはどうしたらいいのか。自然の中に身を置くこと、あるいは暗記、コミュニケーション、芸術、他者への奉仕など、より活動的で社会的な実践が、これらの学校でどのような影響を与えるのかと考えました。そのような実践がアメリカの観想的教育においてどうすれば中心的な役割を果たしうるのか、また青少年の積極的な成長に与える影響をどのように研究しうるのでしょうか。
私はわくわくしながらも、答えの出ない疑問を抱きながら、インドを去りました。「学齢期の子供たちの瞑想をどのように研究し、それを科学的に発展させることができるのか......。」
マインド&ライフとの出会い
その後2005年に、ワシントンDCで開催された「瞑想と科学の臨床応用」の中で行われたダライ・ラマとの「マインド&ライフ・ダイアローグ」に参加しました。マシュー・フォックスとともに新しい教育の形を体験し、インドでは学校全体がホリスティックな教育のビジョンを実現しようとしている実例を目の当たりにした私は、観想教育において科学と実践14を結びつける方法を探していました。それ以上に私は、科学におけるこうした「枠にとらわれない」問題を一緒に探求し、それを教育分野に応用しようとする仲間を探していたのです。
この会議は、私の仕事上の歩み、そして人生における精神的なもうひとつの節目となりました。ダライ・ラマ、リッチー・デビッドソン、ジョン・カバット・ジンなど、素晴らしい人々が壇上で、瞑想と幸福、ひいては教育について科学的に研究する道を示しているのを初めて目にしたのです。「マインドフルネス、優しさ、思いやりは、精神的・神経的に学習・評価できるスキルとみなすことができる」、「そのようなスキルは心身の健康増進に役立つ可能性がある」、「注意を向ける瞑想や慈愛を育む瞑想のような実践は、集中や優しさのようなスキルや健康への有益な影響を育む専門的なトレーニングや教育の一形態と考えることができる」といった考えを初めて耳にしました。これらの考え方は、私にとって驚くべきものであり、とても明確なものでした。私は、まさに私が夢見ていた科学についての深い対話に立ち会っているのだと感じました。もし学校で、生徒の豊かさを育み、問題を予防するカリキュラムの重要な部分として、発達の早い段階でこれらのスキルを育成できたらどうなるでしょうか?
その後すぐに、私はマインド&ライフ社で働き始めました。その中で、私はリッチー・デビッドソンとマーク・グリーンバーグが率いるマインド&ライフ教育研究ネットワークのコーディネーターであり、メンバーでもありました。この新しい関係によって、私は自分の仲間を見つけたと感じました。瞑想実践をめぐる教育について、既成概念にとらわれずに考えることに関心がある科学者、学者、そして瞑想実践者たちからなる学際的なグループです。そしてついに、「心の教育 」をめぐる科学と実践を発展させるための取り組みが本格的に始まったのです。
観想教育の出現
2005年までには、生徒の注意力、意識、共感力、思いやりを育て、それを普及するうことを目的とした、独創的なカリキュラムが数多く登場しました。これらのプログラムには、生徒が穏やかで、明晰で、優しい心や、好奇心、広い視野、広い心、他者への思いやりといった倫理的価値観を身につけられるようにデザインされた体験的実践が含まれています。瞑想はこれらのプログラムの中心的な実践方法であり、自然の中に身を置く、芸術を鑑賞する、太極拳やヨーガなど身体を使った実践を行う、ガイドに従ってイメージを膨らませる、哲学的な深い問いについて思索し、討論し、話し合う、といった他の実践方法よりも重視されることがありました [15]。
興味深いことに、多くのプログラムは、マインドフルネスやストレス反応、呼吸やマインドフルネスを何度も何度も実践することで私たちの心や脳の構造や機能がどのように変化するのか(例:神経可塑性)といった概念を説明するために、心(心理学)や脳(神経科学)の新しい研究を利用し始めました。やがて、マインドフルネスをベースにした学校プログラムが、アメリカ、ヨーロッパ、イスラエル、オーストラリア、ニュージーランド、ブラジル、メキシコ、その他の国々の公教育で普及しました。よくあることですが、こうしたプログラムが子どもや思春期の発達に及ぼす影響の科学的調査は、学校におけるプログラムの普及が急速に進むのに比べて遅れていました(Roeser et al, 2020参照)。私たちの多くは、実験的手法を用いてマインドフルネス・プログラムが教師や生徒に与える影響を研究しようと奔走していましたが、学校におけるこうしたプログラムの急成長には心から驚きました。
観想教育に関する研究
マインドフルネス、ヨーガ、その他の瞑想的実践を教える学校ベースのプログラム16に関する研究は、2000年代初頭に始まりました。教育におけるマインドフルネスに関する新たな研究は、学校における社会的情動の学習(SEL)プログラムを数十年にわたって研究し、その上に構築されました。SELは、子どもたちが自己を理解し、社会性を学び、責任ある決断を下し、自己管理と人間関係管理のスキルを身につけ、学業での成功17を実現できるよう指導するものです。研究によると18、SELプログラムは、生徒の社会性と情動のスキル、学業への意欲、行動、学業成績を向上させるのに役立ち、こうした効果の多くは、数年経った今でも明らかです [19]。
マインドフルネス・プログラムがSELの取り組みに加えたのは、注意力(集中力など)、優しさ、思いやりの心を養うこと、そして感情や行動を整え、他者と仲良くしたり、思いやったりするために、これらを活用することに焦点を当てたことです。続いて、教育者と生徒の両方に対するマインドフルネス・トレーニングについて考えました。SELに関する研究は,SELプログラムを質の高い方法で生徒に提供するために必要な社会性と情動のスキルについて,教師を育てることが極めて重要であることを明らかにしていました。マインドフルネスや思いやりのプログラムについても同様でした。このようなプログラムの重要な意義は、教師が生徒に何か新しいことをするよう求める前に、リソースやサポートを提供することで [20]「ケアする側をケアする」ことでした。
マインドフルネス・プログラムがSELの活動に加えたのは、注意力、優しさ、思いやりの心を養うこと、そして感情や行動を整え、他者と仲良くしたり、思いやったりするために、これらを活用することに焦点を当てたことです。
最近、私の同僚と私は、児童や青少年を対象とした学校ベースのマインドフルネス・プログラムに関する実験的研究をレビューし [21]、そのようなプログラムは生徒の自己調整能力を向上させ、不安や抑うつの症状を軽減し、身体的健康や他者との関係を改善することを発見しました。(一方、怒りや攻撃性、幸福感、学校での行動や成績については、一貫したエビデンスはほとんど見られませんでした。)また、理論と同様に、研究の限界も指摘されています。すべての生徒のための普遍的な教育法として、学校で現在行われているマインドフルネス・プログラムに関するエビデンスは、まだ明らかにはなっていません [22]。
マインドフルネスの実践が生徒に与える影響はまだ評価の途中ですが、このような実践が注意力を養い、感情や行動の自己調節に役立つというエビデンスが出ています。このような実践が生徒にもたらす他の重要な影響(不安や抑うつ症状の軽減、幸福感の向上など)については現時点では明らかにはなっていませんが、教師の幸福感や教室で生徒と関わる際に互いに与える影響については、よりはっきりしてきています [23]。研究によると、マインドフルネス・トレーニングを受けた教師は、そうでない教師に比べて、ストレス、燃え尽き、不安、抑うつが少ないといいます。さらに、マインドフルネス・トレーニングを受けると、教師のクラス編成や生徒への感情的サポートが改善されるという報告もあります。
私たちはどこへ行こうとしているのか
心が豊かで、思いやりがあり、自分の選んだ仕事において実力を発揮し、より平等で正義に溢れ、持続可能な未来を築くのに十分な資質を備えた新しい世代の人々を育てるために、私たちはどのように教育を作り直すことができるのでしょうか。今日、(成人の)マインドフルネス幅広い研究 [24]と同様に、学校におけるマインドフルネスの実践と研究の多くは、臨床的な見地から、個々の問題の予防に焦点を当ててきました。しかし社会との関わりや、すべての人の幸福のための集団行動にはあまり焦点が当てられてきませんでした。また、実践が子どもや若者、大人にどのような影響を与えるかを考慮した上で展開するものでもありませんでした。
ロブはマインドフルネス教育に関連する最近の研究を要約し、マインド&ライフの2022年サマー・リサーチ・インスティテュートで、より発展的なアプローチの必要性について詳しく述べています。
観想教育の分野は、今後どこへ向かう必要があるのでしょうか。以下は、この広がりつつある取り組みの実現を約束するために、より多くの実践と研究が必要であると私が考える、7つの重要なテーマです。
愛: ケア、思いやり、赦しに関連する社会関係スキルや、社会的他者性と帰属意識の形成プロセスにもっと焦点を当てることは、この仕事の将来にとって極めて重要であるように思われます。どんどん深まっていく溝を前にして、私たちは、人生の最初の数十年の間に、より早い段階で、継続的な心の教育が必要です。
からだ: 私たちは、瞑想的なプログラムの中で、からだと私たちの大地とのつながりにもっと焦点を当てる必要があります。自然とのつながりや、それに関連する畏敬の念、喜びだけでなく、心や精神と一緒にからだも育む必要があるのです。多くのプログラムや科学的研究は、マインドフルネスを、喜びや意識を育むためではなく、問題や苦痛を軽減するための方法として捉えています。生徒が芸術に触れたり、自然の中で過ごしたり、行事に参加したり、食事を共にしたり、一緒に奉仕活動をしたりするような、からだを中心とした活動をもっと取り入れることは、プログラムをより興味深く、魅力的で、活動的、そして関わりのあるものにするための様々な方法です。
発達: 私たちは、観想学において大人について考えるだけでなく、世代間の関係に焦点を当てる必要があります。家族、学校、地域社会に関連する多くの実践的な疑問に答えるためには、発達観相学的アプローチが必要です。(例えば、いつ、どのようにマインドフルネスを教えたらいいのか、また、年齢によって生徒の練習意欲を高めるにはどうしたらいいのか。異なる年齢の生徒たちはどれくらいの期間練習すべきなのか。)
多様性: 私たちは、教育における観想的プログラムのデザイン、実施、評価に、多様な人種、民族、言語、ジェンダー、文化的視点を取り入れる必要があります。目標は、文化に対して寛容で包括的なプログラムを開発し、評価する方法を創造することです。さらに、私たちは、仏教に影響を受けたものを含め、それだけにとどまらない、様々な伝統的な知恵と実践を尊重する必要があります。
若者の参加: プログラムの設計、活動、実施において、若者の意見をしっかりと取り入れる必要があります。そのようなプログラムは、若者自身が、具体的にどのように世の中を良くする力となり行動するのか、あるいはどのような方法で注意力や思いやりを育みたいのかについて考える機会を提供することができます。
社会への関与: 私たちは、若者自身のスキルや幸福とともに、彼らの個人的、社会的、そして世界的な倫理上の責任を育てる必要があります。これらのプログラムの目的は、個人の変革とシステムの変革の両方に焦点を当てることです。
人間と地球のつながり: すべての生徒に宇宙誕生の科学的な話をし、地球への帰属意識とつながりを育む必要があります。すべての生徒を海や山といった夜の街の灯りの向こう側に連れて行き、この壮大な惑星と宇宙を自分の目で見ることができるようにする必要があります。人間と地球のつながりの中に人間の繁栄を位置づけ、生徒たちが母なる地球を救い、そして愛せるようにサポートする必要があるのです。
最後に、私が信じているフランシスコ・バレラのシンプルな言葉を紹介します。彼は、知る方法はたくさんあるにもかかわらず、"知恵はひとつしかない、それは愛に基づくものである。 "と言いました。彼はこうも言っています [25]。
私たちが個人として行うことはすべて、ある意味で一体化した調和の表現なのです。そしてその知恵は、人が培い、学ばなければならないものです。私は社会の知恵を同じように感じています。もし私たちが社会の知恵を培うなら、私たちが社会の一員として行うことはすべて、同じような質を持つことになります。私たちが行う芸術も、科学も、私たちが作る道路も、私たちが設計する道路も、私たちが持つ庭も、同じ質を持つでしょう。
特に人生の早い段階から生涯にわたって継続的に知恵を育み、その影響が世界中の社会で自然に流れ、花開くように目を向けること、これこそが21世紀の教育を見直す大きな希望であり、約束なのです。実際、この大切な地球上で共に生きる私たちの人生そのものが、そのような新しいものの見方にかかっているように思えます。
ロバート・W・ローザー
Notes
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Robert W. Roeser
ペンシルベニア州立大学 College of Health and Human Development 教授。ケア、コンパッション、人間開発における研究が専門。 2006〜2010年にはMind & Life Instituteにてシニアプログラム及びMind and Life Education Research Network (MLERN) のコーディネーターを務め、現在は同研究所 運営委員。 Human Development における重要な文化的背景として学校を捉え、そこに関わる管理者、職員、教師、学生のための、教育現場における瞑想的実践の研究を行う。教育を通して育むマインドフルネスやコンパッションが、いかにして「健康とウェルビーイングの向上」「教育と学習」また、「(教育における)公平かつコンパッションのある文化向上」につながるか、その関係性について研究を行う。
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