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蔓延する孤独を前に|Chikako Ozawa-de Silva






社会が生みだす孤独 –––その広がりは、特に子どもや若者たちの間において、伝染病のレベルに達しています。こうした孤独の蔓延を前に、私たちにできることとは、お互いを理解し、ケアし合う “エンパシー(共感する力) “ を育むこと、とチカコ・オザワ・デ・シルバとブレンダン・オザワ・デ・シルバは綴ります。






2018年、当時の英国首相テリーザ・メイは「孤独は現代の公衆衛生上の最大の課題の一つ」として、英国初の “孤独担当大臣” を任命した。米国のヴィヴェク・マーシー公衆衛生局長官は、孤独を「増大する健康上の伝染病(growing health epidemic)」と呼び、社会的孤立は「1日15本のタバコを吸った場合と同程度に寿命の短縮に関連している」と述べている。


社会不安や引きこもりの増加、由々しき自殺率(2019年から2021年のわずか2年間で、米国の10代の少女において51%、10年間で300%以上増加)、数々の銃乱射事件や、医療現場をはじめ様々な分野で生じている燃え尽き症候群や、摂食障害.. これらに共通するものとは、なんでしょう?


多くの場合、こうしたことの中心にあるものは、社会とつながっている感覚や、愛されている、受け入れられている、理解されているという感覚の欠如です。それが、孤独というものです。


孤独とは、ただ “一人でいる” ことではありません。“一人きり” と感じること、そして、不在を感じることです。不在とは具体的には、”愛の不在” を感じることです。マザー・テレサは言います。「最も酷な貧しさとは孤独であり、愛されていないと感じることです」–––


著書『The Anatomy of Loneliness(孤独の構造)』の執筆を始めた当初、私は自殺に関する本を書いているように思われました。日本の自殺率は、全体として1998年に急上昇し(うち青少年が50%以上)、その後10年間にわたり高い状態が続きました。それがなぜなのか、そしてどうすればよいか、誰にも分かりませんでした。何年にもわたり、日本の若者へのインタビューを行い、自死の約束を交わしに人々が集うウェブサイトやチャットルームの言葉のやり取りを研究してきましたが、繰り返したどり着くのは"孤独"というテーマでした。ある若い女性の投稿が、それを物語っていました。「寂しすぎて、ひとりで死ぬことができずにいます。私と一緒に、死んでくれる人はいませんか?」


若者たちが表明していたのは、社会にいかに貢献しているかの生産性を問う「道具的価値(instrumental value)」を超えて、存在の価値を認められることへの切望でした。人を大切に思うとき、私たちは、“彼らが彼らであるから愛している” のであって、道具として人を見ることはありません。私たちの社会構造の中心に、核心的にある「人間の価値を道具化する」という文化的観念 ––– それこそが孤独を促しており、それこそが、見直しを必要とされています。競争と生産性が、ケアや本質的な自己価値とのバランスが取れないとしたら、私たちは若者たちにどんなメッセージを送ることになるでしょうか?


解決策は、いったいどこにあるのでしょう?平和学の父、ヨハン・ガルトゥングは「積極的平和(positive peace)」という概念を取り入れました。真の平和とは、単に暴力がないということではなく、むしろ暴力を防ぎ、暴力から守る、制度や規範、価値観がそこに存在しているということです。共感、コンパッション、信頼、理解といった規範(norms)や価値観。公平性と正義を保証する制度(institutions)。私たちの次なるステップは、孤独社会に確かな終止符を打つための規範や価値観、制度をどのように築いていくか、想像することです。ますますグローバル・ファミリーとなる世界にあって、人々に孤独を感じさせる私たちであれば、その逆にもなり得るのです。


教育は、変化をもたらすことのできる最も力のあるツールです。最近の心理学や神経科学の研究では、幼い子どもや幼児でさえも、残酷さより、優しさや助けることへ自然と向かう志向性を持ち合わせていることが示されています。社会性と情動の学び(SEL)における研究においても、優しさや共感、コンパッションは教育できるものであり、それによって学力や向社会的行動に明らかな改善がもたらされること、さらには、反社会的な行動が減少することが示されています。エモリー大学にて、ダライ・ラマ法王との連携によって開発された「SEEラーニング(社会的、情動的、倫理的学び)」と呼ばれる国際教育プログラムがその一例であり、子どもたちのこれらのスキルを養うための、無料のカリキュラムと練習法が世界に提供されています。SEEラーニングプログラムの開発に携わった私の夫は、ダライ・ラマ法王に尋ねる貴重な機会に恵まれました。なぜ若者たちが、強く深い孤独のなかで自死に向かってしまうのか、と。法王は仰いました。「それは、個人の問題ではありません。大切にされていると彼らに感じさせない、社会の問題です」


これが私たちに必要な視点の転換です。社会が生み出す孤独 ––– 愛されている、まなざしを向けられている、理解されているという感覚の欠如 ––– その生まれ広がるようす(the rate of this production)は、特に子どもや若者たちの間において、伝染病のレベルに達しています。こうした孤独の蔓延を前に、私たちにできることとは(The vaccine for this epidemic is)、お互いを理解し合い、ケアし合う “エンパシー(共感する力) “ を育むことです。そうした対応を取ることで(With this vaccine)、究極の治癒をもたらすコンパッションのある社会へと、私たちは向かうことができるのです。



2023 年 1 月 20 日


 

チカコ・オザワ・デ・シルバ

エモリー大学の人類学教授であり、『The Anatomy of Loneiness: Suicide, Social Connection, and the Search for Relational Meaning in Contemporary Japan(孤独の構造:現代日本における自殺、社会的つながり、関係性の意味の探求)』(カリフォルニア大学出版局、2021年)著者。



ブレンダン・オザワ・デ・シルバ

エモリー大学 Center for Contemplative Science and Compassion-Based Ethic 准教授であり、SEEラーニング アソシエイト・ディレクターとしてSEEラーニングプログラムの開発に携わる。



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