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​【特集】ボディワーカーにきく
レジリエンスってなんだろう?

SEEラーニングは "レジリエンス" を育む学びです。

“よりよく生きる” を身体から研究するボディワーカーの小笠原和葉さんに、

レジリエンスについてお話いただきました。

はじめに

毎日の生活の中で、私たちはさまざまな出来事に出会います。楽しいことや嬉しいこともあれば、ストレスやプレッシャーを感じる場面もあります。そのとき、私たちの心や身体はどのように反応しているでしょうか?

たとえば、急に仕事や勉強でプレッシャーを感じたり、大切な人と意見が食い違ったりすることがあるかもしれません。そのような状況で、すぐに落ち着いて対処できるときもあれば、なかなかうまくいかないときもあります。この「うまくバランスを取る力」のことを「レジリエンス」と言います。

SEEラーニングでは、この「心や身体の反応」を理解し、自分自身を落ち着かせたり、バランスを取り戻したりする力を「レジリエンス」として捉えています。私たちの心身の健康やウェルビーイングにとってとても大切なもので、それは「育てる」ことが出来るのです。本記事では、レジリエンスとは何か、神経系との関係、そして日常で使える「お助け術」についてご紹介していきます。

Image by Manas Manikoth

レジリエンスとは?

レジリエンス(resilience)とは、内面が強く、自分でコントロールでき、困難に対処できるという意味です。ストレスや困難に直面したときに、適応し、立ち直る力のことを指します。この力は生き物として本来誰もが持っているものであり、生命や身体の持つ知性ですが、意識的な実践やエクササイズで、その力をさらに伸ばしていくことが出来ます。

たとえば、スポーツ選手が試合でミスをしたときにすぐに気持ちを切り替えて次のプレーに集中できるのも、レジリエンスの一例です。反対に、失敗を引きずってしまうと、プレッシャーが増してさらにミスをしてしまうかもしれません。このように、レジリエンスは私たちの判断力や行動に大きな影響を与えます。

SEEラーニングでは、私たちの心と体が「レジリエンス・ゾーン」と呼ばれるここちよく安定した状態にあるときに、最も健康的で、自分らしさを発揮できると考えています。

神経系とレジリエンスの関係

「心と体はつながっている。」そんなふうに聞いたことがありませんか?心と体をつないでいるのが「神経系」です。なかでもとりわけ自律神経系と呼ばれるシステムが心や体の状態を調整しています。

自律神経には、以下の2つのモードがあります。

◯ 交感神経(アクセル):活発に動くためのモード。

◯ 副交感神経(ブレーキ):リラックスするモード。

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神経系の主な役割は私たちのいのちを生き続けさせることです。そのため常に今自分が「危険か安全か」を判断して、それぞれに応じた全身の体の様子や心のあり方に調整し続けてくれています。


[ 危険を感じた時は ]

 → 交感神経を活性させ、体や心を行動や防御に向かわせます。

[ 安全を感じた時は ]

 → 副交感神経を活性させ、体や心をリラックスさせます。

2つの神経がバランスよく働いているとき、私たちは「レジリエンス・ゾーン(またはOKゾーン)」にいると言えます。しかし、強いストレスや不安を感じると、このゾーンから外れてしまうことがあります。

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たとえば、大勢の前で話すときに緊張してしまい、心臓がドキドキしたり、呼吸が浅くなったりすることはありませんか?

 

これは交感神経が優位になりすぎた状態、つまり「ハイ・ゾーン」に入ったサインです。

 

一方で、大きな失敗をしてしまい何もやる気が出なくなるとき、それは「ロー・ゾーン」に陥ったサインかもしれません。

​3つのゾーン

SEEラーニングでは、私たちの神経系の状態を3つのゾーンで説明します。

  1. レジリエンス・ゾーン(OKゾーン)

    • 落ち着いていて、冷静に考えたり行動したりできる状態。

    • 少し興奮したり、少しエネルギーが落ちたりしても、自分で調整ができる。
       

  2. ハイ・ゾーン

    • 不安、怒り、緊張が高まり、心拍数が上がる。

    • イライラしやすく、焦燥感を感じる。

    • ここから抜け出せない状態→「過覚醒」
       

  3. ロー・ゾーン

    • エネルギーがなく、無気力や無関心になりやすい。

    • 何もしたくない、ぼんやりする。

    • ここから抜け出せない状態→「低覚醒」

このように、神経系の状態を知ることで、自分がどのゾーンにいるのかを理解しやすくなります。自分の身体感覚を手がかりに、今どこにいるのかを知ることが、レジリエンスを育む第一歩です。身体感覚についてはこちらの記事をご覧ください。

身体感覚に気づくための「お助け術」

誰しもOKゾーンからはみ出す瞬間がありますから、ハイゾーンやローゾーンにいることが悪いこと、ダメなことだとは思わないでください。けれど、ストレスが去ったなら心地よい本来の自分らしさの中に戻れるよう「お助け術」を使うことで、すばやくOKゾーンに戻ることが出来ます。お助け術は、私たちのこころと体、そして注意を「今ここ」へと戻す簡単な実践法です。

​ここでは、SEEラーニングの9つのお助け術のうち、代表的なもの4つをご紹介します。

OKゾーンに戻るしくみと、その先へ

お助け術は、気持ちを切り替える「気分転換」ではなく、実は私たちの神経系に働きかけてレジリエンスを育てていく科学的な調整スキルです。感覚に注意を向ける(トラッキング)、身体の接地感に気づく(グラウンディング)、心地よい感覚に焦点を当てる(リソーシング)などの行動は、神経系に「今は安全だよ」「落ち着いて大丈夫だよ」というメッセージを届け、身体の中の緊張状態をゆるめてくれます。身体がゆるめば、心もゆるみます。これにより、過覚醒や低覚醒の状態(ハイ/ローゾーン)から、自然とOKゾーン(レジリエンス・ゾーン)に戻ることができます。

さらに、こうした実践を日々の生活に取り入れることで、私たちは「OKゾーンに戻る力」だけでなく、「適切なゾーンにとどまれる力」も育てていきます。つまり、自分が安全であるという感覚を身体レベルで学習し、以前ならすぐに不安定になっていた状況でも落ち着いて自分らしくいられる範囲が、少しずつ広がっていくのです。この変化は、耐性の窓(window of tolerance)が広がる、とも表現されます。より安定した、懐の深い人になっていくというようなイメージです。

 

SEEラーニングは、教育プログラムであり、トラウマ治療を目的とするものではありませんが、このような基本的なスキルと知識が「しなやかさ」や「自分の力を思い出す感覚」を育んでくれることは、誰にとっても大切な学びとなってくれるはずです。私はボディーワーカーとして、この視点があることがSEEラーニングのすばらしさの一つだと感じています。

コンパッションと安全性

自分自身や他者へのコンパッション(思いやり)もレジリエンスを育んでくれます 。

研究では、安心感や支え合いのある環境にいるとき、私たちの神経系は安定し、レジリエンスが高まることが示されています。

  • 他者からの思いやりは、レジリエンスを回復させる力になる。

  • 自分自身に対しても優しく接することで、回復力が高まる。

  • 安全な環境を作ることで、神経系が落ち着き、ストレスに強くなる。

つまり、レジリエンスとは単に「自分ががんばって強くなる」ことではなく、「安全なつながりの中でしなやかに適応する力」と言うこともできるのです。

​まとめ

 

私たち人間は、複雑な心を持っていますが、同時に生き物としてのシンプルな仕組みと自己調整の力も持っています。

レジリエンスは、私たちがストレスや困難に対処するために大切な生き物としての力です。自律神経のバランスを知り、自分がどのゾーンにいるのかを感じ、理解できることで、レジリエンスを育むことができます。「お助け術」を活用し、レジリエンス・ゾーンに戻り、心と体の安定を取り戻すことは、生き物としての自分に手当をしてあげることでもあります。それ自体が自分のためのコンパッションであり、皆がしなやかに暖かく支え会える社会の基盤と言えるでしょう。

KazuhaOgasawara

小笠原和葉|Kazuha Ogasawara

大学院で宇宙物理学を専攻後、SEとして国内ITベンダーに就職。 その後、自身の健康への問題意識をきっかけに、フィジカルとメンタルとの関係性に着目、研究を始めた。 人間全体をひとつのシステムとしてとらえ、より良く生きる生きるための身体性や生理学について 個人から企業までそれぞれのニーズに合った形で幅広く教育・啓蒙・コンサルティングを行っている。また、2023年、身体がキーワードとなる様々な学際領域をつなぐ学問領域に「臨床身体学」を立ち上げ、日々臨床・研究活動を行っている。著書 『理系ボディーワーカーが教える“安心”システム感情片付け術』(日貿出版社)
趣味はフィギュアスケート鑑賞。一児の母。

https://bodysanctuary.jp/

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